中原みすず『初恋』(リトルモア)

珍しく読書感想文。
宮崎あおいちゃんの主演で6月公開予定の映画の原作です。
1968年に起きた府中三億円事件の実行犯の手記、という体裁で展開される小説。
一気に読んでしまいました。主人公の心理描写、そして60年代後期の新宿の空気感、三億円強奪実行のスリル。「小説」あるいは「フィクション」としては、伏線の展開が読めてしまいますが、そんなものを吹き飛ばしてしまうくらいココロに訴えてくるものがありました。私はこの作品の時代には生まれてすらいないので、ノスタルジーもリアルさも本当はないのですが、「分かったつもりには」十分なる。それだけの説得力があります。
そして。気になるのが「本当に三億円事件の実行犯なのかどうか」というところ。作品としてほとんど破綻せずにまとまっているだけに、事件をネタに使った巧妙な作品でもいいのですが、ある部分で真実もしくは関係者なのかな、という印象です。
元々は、自費出版された『記憶のカルテ』(1998年?)という書籍が、2000年7月に城真琴『褐色のブルース 幻想の手記』(文園社)として発行。それが2002年に『初恋』となったそうです。
つまり『初恋』に至るまで2回の出版元の変更と加筆・修正が行われています。
『褐色のブルース 幻想の手記』の前年(1999年)に、風間薫『真犯人―「三億円事件」31年目の真実』徳間書店)という書籍が発行されており、三億円事件をめぐる内容は『初恋』とほぼ同じだそうです(本的にはあまり評判がよくないようです)。

それから、作中の三億円事件とは絡んできませんが、登場人物のひとり「タケシ」については、「92年に癌で亡くなった芥川賞作家」ということからか中上健次と言われています(そういえば、帯に娘の中上紀もコメントを寄せています)。

最後に。
http://chloebooks.jugem.jp/?eid=189
こちらのブログに作者本人と思しき人物(「みすず」)からのコメントがあります。
これを読むと...。

追加。
http://flatkotori.blog12.fc2.com/blog-entry-405.html
ここに『真犯人―「三億円事件」31年目の真実』との関係性が。